新潟日報LEADERS倶楽部山口真由氏講演会
2026年度は121の組織・企業が参加する「新潟日報LEADERS倶楽部」。
7月1日、テレビコメンテーターとしても活躍する信州大学社会基盤研究所特任教授、ZEN大学教授の山口真由氏を講師に迎え、多様性の重要さや日本が直面している課題についてお話を伺いました。
講演
日本企業における
「多様性」とのつきあい方
山口 真由 氏
日本の「家族型組織」のメリットとデメリット
日本の伝統的な組織運営は「家族型」。社員を家族の一員とみなし、上司や先輩、会社ぐるみで成長させるべく教育し、保護するシステムです。
私が大きな組織で働いたのは今から20年くらい前。大学新卒時に入省した財務省です。東京大学を「全優」で卒業したため期待されましたが、職場では完全なポンコツ。しかし、先輩や上司は常に私の可能性に目を向け、長期的な視点に立ち、手厚い教育を施してくれました。家族型組織には個人に対する圧倒的な温かさ、ケアがあります。
その一方、個人に対する強度なコントロールが存在しているのも事実です。日本では個を抑制し、チームの規律を守り、組織に貢献することが要求されます。デメリットはあるものの、日本がつくりあげた家族型というシステムは、間違いなく洗練された組織運営モデルの一つと言えます。
組織より「個」を重視する新世代と世界的潮流
しかし今、家族型組織は問題視されています。背景にあるのは新しい世代の台頭と、世界的な潮流です。
「ミレニアル世代」とは、1981年以降に生まれ、2000年代に社会人になった世代を意味します。この世代はインターネットの普及と思春期が重なった「デジタルパイオニア」。組織で「個」を主張するようになった初めての世代です。
「Z世代」は1996年以降生まれの完全なスマホ世代、デジタルネイティブです。ほとんどがプライベートを重視しており、組織から得た成長も個に還元し、自分自身で世界を切り開こうと考えています。
Z世代の次世代、2010年前後生まれの「アルファ世代」が今後、日本の組織・企業に入ってきます。彼らは幼少期から「ありのままでよい」と自己肯定感を重視して育てられる一方、早く「何者かになりたい」という焦燥感も抱えています。
新世代に共通しているのは「個」が非常に強いということ。私はミレニアル世代に当たりますが、入省後、期待された役割を果たせない苦しみに苛まれることが続き、2年目の秋、人事の最高責任者である当時の秘書課長に「辞めたい」と相談しました。秘書課長は平職員の私の話に2時間も耳を傾け、配慮に満ちた提案をしてくださった。本当に温かい、親のようなケアと同時に、組織人としての立場から私の退職は許すべきではないという計算も感じました。「家族型組織では自分のものさしと組織の論理を分けられない」ことがどうしても嫌でしたし、人生の決定権を自分に取り戻したいという思いが高まり、私は財務省を辞めました。
将来の組織で中心になる多様性ネイティブ世代
世界的な潮流である「ポリティカル・コレクトネス(PC)」は、多様性を重視し、あらゆる人を差別せず、少数者にも不快感を抱かせない表現の徹底です。「属性でくくらず、個人を個人として細やかに認識する」という考え方が背後にあります。60年代以降、主にアメリカの個人主義の中で登場し、この20年で極端に強くなっています。
現在の日本でPC意識の高い世代の中心はミレニアル世代とアルファ世代。彼らに合わせて、今ではNHK教育番組もPCと多様性に配慮するほどです。今後はアルファ世代のような「多様性ネイティブ世代」が企業や組織に加入してきます。中でも組織と企業が喫緊に向き合わなければならない多様性は「性自認と性指向」。彼らの思考の理解と受け入れ環境の準備は必要でしょう。
日本らしい組織運営で「個」の時代を生き抜く
いつの頃からか「多様性を理解するのが正義、理解しないのが悪」になり、多様性という武器で人を断罪する風潮に傾いてしまいました。欧米では二極化、分断が進んでいます。日本も将来、欧米のようになってしまうのではないかと悩んでいた時、財務省時代の秘書課長から電話をもらったんです。「頑張っているね。活躍できて良かった」と喜んでくださいました。彼は私をコントロールできなくなっても気にかけ続けていた。ケアだけが残っている。もしこれが家族型の本質であるなら、日本はこれを基準にして、組織をさらに強くしていけるのではないでしょうか。
組織として「個」を全肯定し、それぞれの能力への支援と、成長を促す手を差し伸べ続ける。そういうリーダーシップで組織を運営すれば、世界に冠たる国として日本を立ち上がらせることができるのではないか、と考えています。
プロフィール
山口 真由(やまぐち まゆ)氏
1983年札幌市出身。2006年東京大学法学部を卒業。同年財務省に入省、主税局に配属。08年に財務省を退官。
09年より弁護士として活動。15年ハーバード・ロー・スクール(法科大学院)に留学、16年卒業。17年ニューヨーク州弁護士登録、20年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了を経て、20年信州大学社会基盤研究所特任准教授。21年より同特任教授(現職)。24年ZEN大学教授。
